ウクライナ通信

ウクライナからの現地情報とウクライナ人の生の声をお伝えします

2022.02.14

昨日(2月13日)の夜、ジャーナリストのイリーナ・ロマリイスカヤИрина Ромалийскаяが自身のFacebookに投稿したポストがFacebookやTelegramで大きな話題になっています。

イリーナは13日、仕事でチェコに飛び立ちました。

その際、彼女がFacebookに投稿したのが以下のポストです。

【原文】

Мне страшно. 

И больно. 

И хочется кричать от бессилия. 

Я вынуждена улететь из Украины, потому что работаю в Праге. 

Увожу с собой маленький серебряный тризубец. Друзья подарили. 

Я люблю тебя, Украина.

(原文ママ)

【引用元】

https://www.facebook.com/photo/?fbid=7119155348126725&set=a.488885961153730

【日本語訳】

怖い。

そして痛い。

無力感で叫びだしそう。

プラハで仕事があるので、ウクライナから飛び立たなければならない。

(ウクライナの国章)小さな銀のトルィーズブを持っていく。友人たちがくれたもの。

ウクライナ、愛してる。

 

ロマリイスカヤのFacebookはロシア語で書かれていて、このポストもロシア語ですが、意図的なのか、間違いなのか、「тризубец」という一語だけウクライナ語で入っています。

ただし、ウクライナ語ならば「тризубець」、ロシア語ならば「трезубец」なので、どちらにしても正しくありません。

「тризубець」は画像にあるように、三叉鉾を模したウクライナの国章です。

自分はこれから国を離れるけれど、ウクライナの象徴であるトリィズーブを持っていく、私の心はいつも祖国と一緒にあるという、一種の宣言といえるでしょうか。

意地悪な見方をすれば、「何のためにFBにアップするの?」という疑問がわかなくもありませんが、平時であれば、友人たちからナイスをもらえるポストだったでしょう。

 

しかし、ポストが投じられたのは、2月13日(日曜日)の夕方7時頃でした。

13日は、午前中にSkyUpの航空機がキエフに入れずモルドヴァのキシナウに臨時着陸。ウクライナの上空が閉鎖される、つまり、この先、一般人はロシアから攻撃があっても逃げられなくなるかも知れないというニュースが、反ウクライナ派インフルエンサーたちのフェイクニュースも交えて飛び交い、人々が不安に陥っている最中でした。

そのため、ロマリイスカヤのこの短いポストは親露派・親ウクライナ派双方のウクライナ人から攻撃を受けることになりました。

親露派インフルエンサー アナトーリー・シャリーの揶揄

ロマリイスカヤのポストにいち早く反応したのが、親露派ビデオブロガーで「ウクライナ嫌い」の筆頭といわれるアナトーリー・シャリー。

シャリーはロマリイスカヤのポストから一時間もたたないうちに自身のTelegramチャンネルに彼女のポストを揶揄する投稿をあげました。

こちらが彼のポスト。

【原文】

Пропагандистка из “Настоящего времени”. Скоро таких постов станет очень много. Они будут брать с собой “кусочек Украины”, “горсть землицы”, “Кобзарь” или что-то типа и отваливать. С Украиной в сердце, конечно

(原文ママ)

内容は、「『Настоящего Времени』のプロパガンダ女。もうすぐこの手のポストがどっさり置かれるんだよ。こういう奴らは『ウクライナの欠片(かけら)』だとか『一握りの母国の土』だとか『(シェフチェンコの)コブザール』だとか、その手のものを手にして国から逃げ出すんだ。心のなかではウクライナと共にってさ、勿論そうだろう」といった意味です。

シャリーが言いたいのは、「見てろよ、ウクライナのエセ愛国者たちがこれから次々とウクライナを脱出して、そのたびにこういう綺麗事を吐くんだぜ(笑)」というようなことです。

シャリーはウクライナ人、特にウクライナ語話者に最も嫌われている新ロシアブロガーの筆頭、この後もユダヤ系インフルエンサーのゴルドンやが家族を国外に脱出させたとか、オリハルヒたちが自家用機で飛び立ったと書き立ててアクセスを稼いではYou Tubeのチャンネルに流しています。

「民衆のしもべ」党ドゥビンシキーの批判

一方、シャリーがポストをあげるのとほぼ時を同じくしてTelegramにポストをあげたのが、「民衆のしもべ」党のドゥビンシキー。

こちらはシャリーとは対極の政治家。

ドゥビンシキーは同日、「国民のしもべ」党の党員に国を離れることを禁じるポストをTelegramにおいていました。

そして、それから数時間後、ロマリイスカヤのFBポストに対して書かれたのが、以下の投稿です。

【原文】

Работница Радио Свобода бежит из страны со слезами на глазах и серебряным трезубцем. 

Интересно, как он ей не прожигает руку? Насколько я помню из мифологии, оборотней и вампиров убивали именно серебром.

(原文ママ)

意味はかなり辛辣で、「『ラジオ・スヴァボーダ』の職員が目に涙を浮かべ、手に銀のトルィズーブを持って、国から逃げ出そうとしている。彼女の手が銀でただれないのが不思議だ。神話で覚えてる限り、吸血鬼や狼男は銀で殺されたはずなのに。

画像はTelegramですが、彼はFacebookにも同文を投稿しています。

https://www.facebook.com/photo/?fbid=5131590310225819&set=a.265257583525807

あまりにも辛辣なドゥビンシキーの口撃には反感も強く、彼のページにも反論が届いています。

ロマリイスカヤのアップデート

こうしたポストの影響もあって、ロマリイスカヤのポストには過激な返信が殺到しました。

ジャーナリストで友人やファンも多いロマリイスカヤだけに彼女を擁護する返信やライクも付いたものの、人格を否定するような激しい返信が留まらないため、数時間後にコメント出来る範囲を制限し、コメントをアップデートしました。

アップデートの内容は、自分が既に3年にわたってプラハの「ラジオスヴァボーダ」で働いていること、チケットは既に購入してあったもので、「今日のニュース(ウクライナ領空の飛行が制限されるという噂)とは何の関係もない」こと、この状況をみてチケットを買ったのではないことを説明するもの。

ロマリイスカヤはアップデートの最後を、「嫌なこと書き込んでくれてる皆さん、注目してくれて、どうもありがとう。Спасибо за внимание всем тем, кто сейчас пишет гадости.」という皮肉っぽい文章で閉じています。

このアップデートは、「思いがけず色んな人から関心をよびおこしてしまった」という一文から始まって、激しく口撃してきた人を何人か挙げていますが、勿論、ドゥビンシキーの名前もはいっています。