27.03.2022
一ヶ月目の爆撃
今回はリヴィウの戦いについて。
2月24日のロシアによる侵略開始からほぼ一ヶ月が過ぎました。
31日目の昨日、3月26日にはリヴィウに新たなミサイル攻撃があり、爆撃を受けた燃料貯蔵所が火災を発生、一晩中消火活動が続いていました。
同じ時間帯にリヴィウと隣接するヴォルィン州のルーツィクでも爆音が確認されています。
私はちょうどハルキウからルーツィクに移ったトニーとTelegramで話していたところでした。
彼が「そっち大丈夫?」と言った途端に、彼のところでも爆音がしたそうです。
アメリカのバイデン大統領がポーランドを来訪中で、リヴィウから程近いジェシュフに駐留するアメリカ軍に激を飛ばしていたことへの牽制ではないかとみられています。
画像はリヴィウ州の軍政権責任者マクシム・コジツィキーのTelegramが提供しているものです。
リヴィウの現状
リヴィウの現状をまとめておきたいと思います。
まずは、侵略戦争の中心部分から。
爆撃
リヴィウの戦いはキエフとは違います。
まず、リヴィウではこれまでのところ、爆撃は殆どありませんでした。
リヴィウ州での爆撃は3月13日のヤヴォリウ国際平和維持安全センターへの攻撃が最初。
火災が起こって、35人が被害にあいました。
次が18日で、市内にある航空機の修理工場が爆撃を受けています。
そして、今回、26日の爆撃が3回目です。
砲撃はセヴァストーポリから発射されたと言います。
トルストイも泣いているでしょう。
妨害工作者Диверсант
リヴィウは首都のキエフや東部のハルキウのような無差別攻撃を受けていません。
私達は今回の侵略を「ロシアによるウクライナ侵略」と呼んでいますが、ロシア側は「ウクライナ東部での特別軍事作戦」と称しているため、「ロシアに対する脅威」がない限りは西には来ないという表向きです。
これまでの西ウクライナの飛行場や航空施設、燃料施設への攻撃は、脅威になれば攻撃するよというNATOと西ウクライナに対する仄めかしでもあります。
この「脅威」を自分たちで作り出すためにロシアが送り込んでくるのが、ディヴェルサントДиверсантと呼ばれる妨害工作者。
リヴィウの当局はこの妨害工作者の排除に力を入れていて、昨日の爆破時にもパトロール中の警官が爆撃の模様を撮影していた男を拘束しています。
また、こうした妨害工作者の侵入を防ぐため、リヴィウのあちこちにブロクポストБлокпостと呼ばれる検問所が設置されています。
侵略が始まり、東からの避難民、つまり、ロシア語話者が大挙流入を始めた今月初旬には、検問所の数は500を超えていたと報告されていますが、現在は少なくなっています。
軍関係の撮影禁止が法令化
以前もお知らせしたように、一般人やブロガー、経験の浅いジャーナリストによる軍事関係の撮影が問題になっています。
国や各州の軍管理者からは再三、爆撃の場所が分かるような画像を投稿したり、公式発表が出る前に場所を特定したりしないよう言われていました。
しかし、なかなか改善されないため、24日、軍関係の情報を拡散することを犯罪とする法案が可決されました。
昨日、リヴィウでの3回目の爆撃時、多くのチャットで爆炎の画像や「場所は?近いのか?」といった憶測が飛び交っていましたが、殆どはチャットの管理人に削除されていました。
ただ、それは私の見たチャットが忠実だっただけで、Telegramなどにはもっとモラルの緩い、敵に利用されやすいユーザーもいるでしょう。
個人生活
次は私の個人生活から、戦前と戦中の変化をあげていきます。
リヴィウの戦いは銃後を守ること。
キエフが働けない分、仕事が忙しくなっている人が多いのが特徴です。
私自身もその例から外れていません。
仕事
まずは、仕事。
私は二つの方法で働いています。
一つはウクライナの会社の社員として、もう一つは自分の個人事務所の代表としてです。
どちらも侵略が始まってから、忙しくなりました。
会社
最初に、リヴィウの会社の取り組みについて。
3月25日のZaxid.netの記事によると、ウクライナのIT会社の5割近くが今回の侵略で業務を縮小したといいます。
しかし、その一方で、98.5%、ほぼ100%近い会社が業務自体は維持していたということです。
これはITクラスターというリヴィウのIT系会社によるコミュニティに参加している会社を対象にしたインタビューの結果です。
ITクラスターはIT系の組合みたいなもので、私の勤める会社も参加しています。
およそ半数が業務を縮小したものの、結果的に業務自体は維持しているというのは、私の会社も同様なので納得の数字です。
リヴィウのIT会社、特にITクラスターに参加している会社の多くはキエフ等、リヴィウ以外にも支社或いは本社を持っています。
そのため、侵略が始まった最初の週と2週目は業務を縮小せざるを得ませんでした。
避難手当
しかし、その後、各会社は社員の安全確保を援助、爆撃の激しい場所から移動させたり、海外に移動させたりするための資金を提供し始めました。
IT Research Monitoringの調査によると、対象企業の63.1%が、2月24日時点で東部やキエフといったロシアに攻撃された地域にオフィスまたはリモートで働く従業員を擁していました。
したがって、何よりも優先することは、危険地にいる社員をより安全な場所に移すことでした。
そのために、半数以上の会社が給与を前払いしたり、移動のための資金援助をしたりしています。
保証の平均額は$957になるとZaxid.netは報じています。
私の会社でも、先週の調査で、社員の7割が通常業務可能な環境にあると回答しています。
【参照記事 Майже половина львівських ІТ-компаній скоротила ділову активність під час війни】
オフィス再開
警報発令時の避難所の不備で閉鎖中だった私の会社のリヴィウオフィスも、装備を補充、水曜日から再開しています。
火曜日に支社長のヤリーナからSlackで全体メールが届き、仲の良い警備のジェーニャからもViberで「いつ来る?」と連絡が入りました。
私は猫の調子が良くなかったので今週は様子を見ていましたが、だいぶ落ち着いてきたので、来週からオフィスに出社する予定です。
個人事務所
次は個人事務所の仕事状況について。
個人事務所では翻訳とライティング、レッスン、イベント等を請け負っていますが、ウクライナ関係の依頼がいつもより多く来ています。
ただ、戦争関係の翻訳やライティングは、知り合いや同僚からの依頼しかお受けしていません。
戦争関係の仕事でお金をいただけないからです。
したがって、仕事関係のSNS(LinkedInやSlack等)で依頼された仕事はすべてボランティアになります。
奇抜な依頼
ただ、状況が状況なのと、一般のウクライナ人には日本に関する知識がないのとで、困った依頼も多々あります。
例えば、「日本の天皇に陳情をだしたいから、日本語で代筆してくれ」とか「ダライ・ラマに陳情を書くから翻訳してくれ」といったものです。
こういう依頼は実現性が極めて低いのは無論ですが、万一にでも実現した時外交問題に発展する危険性があるので、やんわりお断りします。
この種のプランを持ってくる人は、ウクライナ国外にいるウクライナ人や北米のウクライナ系アメリカ人、カナダ人等に多く、ウクライナ国内には少ない傾向です。
国外にいる人の心理には、自分は安全な所にいる、せめて何かしたいという思いが国内にいる私達よりも強いようです。
生活物資
今日(土曜日)、久しぶりにATBで買い物をしてきました。
ちょうど1,000フリヴニャくらい(日本円で3000円くらい)食料品や生活必需品を買ってきましたが、先週より物資は増えていました。
普段目にしないメーカーの商品ではあるものの、お米もマカロニもたくさんありました。
これまで通り、混雑も買い占めもなく、穏やかな買い物風景です。
フランス3社ボイコット
一方、今日の報道で、クレーバ外相が、いまだロシア市場から撤退しないフランス企業Auchan、Leroy Merlin、Decathlonに対してボイコットを呼びかけています。
この3社は全て、フランスは無論、ヨーロッパでも屈指の金満家であるミュリエ家のAFM(Association Familiale Mulliez)が所有する会社です。
Decathlonは今回の侵略で大打撃を受けているスームィやチェルニヒウなどで展開してきたスポーツメーカー、Leroy Merlinも影響の大きい会社ではありません。
問題はAuchanです。
さよならAuchan
Auchan(ウクライナ語ではАшанと書き、アシャンと発音します)は2008年にウクライナで店舗を展開し始め、2010年にリヴィウに最初の店舗を開いています。
リヴィウ郊外にあるショッピングモール「King Cross Leopolis」の一階部分を占める一号店に続き、2号店、3号店が開店、ネットショップも提供しています。
やすいし、品揃えも豊富なので、私も月に1,2度、買い出しにでかけていました。
Auchanはウクライナでは「King Cross Leopolis」のようなハイパーマーケット形式の店舗が主流ですが、ロシアではスーパーマーケット形式が主流。
スーパー形式では、本国フランスに次ぐ店舗数で、しかも、昨年末にeコマースでのパートナーシップを提携したばかり。
商売上手なミュリエ家だけに、外資が次々撤退したロシアで稼ぐつもりではないかと囁かれています。
ボーナスカードも結構たまっているんですが、さよならアシャン。